病院・福祉施設における画一的面会禁止は違法
日本弁護士連合会(日弁連)は、令和3年4月16日、「コロナ禍における社会福祉施設・医療施設での面会機会の確保を求める意見書」を発表した。
日弁連は、病院・福祉施設などに入居する高齢者・障がい者にとって,面会の重要性を次のように指摘する。
「面会は健康面・身体面での意義に限らず,人とのコミュニケーションを取り,社会とのつながりを感じることで得られる幸福感を充足させるといった精神面での意義をも有している。人と面会して,コミュニケーションを取る権利は,人格的価値,関係性構築にかかる価値につながるものであり,社会福祉施設や医療施設に入所・入院している高齢者・障がい者にとって,面会をすることは人格的生存に不可欠であるため,憲法第13条の規定する幸福追求権として保障されるべき人権である。また,国際人権自由権規約は,何人も,その私生活,家族,住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉されず,かかる干渉に対する法律の保護を受ける権利を有するとしている(同規約第17条第1項)。」
このように、面会の権利は、憲法上保障され、国際人権自由権規約でも保障されているのみならず、「人格的生存に不可欠」とまで明記される非常に重要なものである。
日弁連は、こうした入居者の面会を長期間制限することにより、次のような悪影響が生じると指摘する。
「長期間にわたり家族等の身近な人との面会が制限されることにより生じる本人への影響として,高齢者についての調査研究の結果によれば,ADL(IADL)3の低下,認知機能の低下,行動心理症状の出現・悪化,身体疾患の悪化,身体活動量の低下,意欲の低下又は興味・関心・意欲の低下が生じ,健康被害や死亡に至るリスクが高まること(いわゆるフレイル化)が明らかになっている。」
なお、ADLとは,「日常生活動作」のことであり,起床,食事,着替え,入浴等の日常の基本的な動作を指す。IADLとは,「手段的日常生活動作」のことであり,ADLに比べて,より高度な運動や記憶力を要する動作を指す。(例えば,買い物や電話の対応等。)また、調査研究として、広島大学「【研修成果】新型コロナウイルス感染症の拡大により,認知症の人の症状悪化と家族の介護負担増の実態が明らかに~全国948施設・介護支援専門員751人のオンライン調査結果~」(https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/59484)が引用されている。
そして、日弁連は、こうした面会の重要性に鑑み、「必要な物的・人的体制整備を行い,地域の感染状況に応じて,感染防止と面会機会の確保のバランスの取れた対応を行うように努め,一律の面会禁止を行うなど画一的な対応を講じることのないようにすること。」を提言している。
また、日弁連は、特に、「面会禁止措置を講じることがやむを得ない場合であっても,精神科病院における退院・処遇改善請求手続のための面会,②看取り期の面会,③喫緊の懸案事項があり本人の意思を確認することが不可欠な場合や意思決定支援など,権利擁護の観点からの面会等は認められるべきである。」と述べている。
こうした提言から、(1)画一的な面会禁止は違法である、(2)仮に、何らかの面会禁止措置を講ずる場合であっても、①精神科の退院・処遇改善のための面会、②看取り期の面会、③権利擁護の観点からの面会等を禁止するのは違法である、と考えられる。
「新型コロナウイルス感染症」に関し、連日の加熱した報道や宣伝により、従来の他の感染症への対応に比べ、国民が過剰反応しているケースが見受けられ、その結果、本来認められている重要な人権が無視され、蹂躙される場面が少なくない。そうした中でも、日弁連が、社会正義と基本的人権の擁護のために、こうした面会の権利を守るという意見書を出している点は注目に値するものである。
日本弁護士連合会:コロナ禍における社会福祉施設・医療施設での面会機会の確保を求める意見書 (nichibenren.or.jp)