土地の「境界」の問題はなぜわかりにくいのか
土地の「境界」の問題について、弁護士が相談を受けることもしばしばあります。
そして、境界の問題は、話が分かりにくくなる傾向にあります。
これは、「境界」という言葉の意味が、2つあるからです。
① 筆界・・・明治時代に、近代所有権制度ができて、
土地が分けられたときの境界。これを原始筆界といいます。
または、その後、新たに「分筆」して形成されたときの境界。
これらの境界は、あとで勝手に動くことはありません。
建物を建てようが、塀をつくろうが、穴をほろうが、何をしようが、
動きません。
土地を分筆した境として、法務局備え付けの地図(公図)に
記録されているものです。
② 所有権界・・・お互いの所有権の範囲の境です。
それぞれの所有権の範囲は、ふつうは、土地の「筆界」と一致
しますが、これは、様々な原因により、動くことがあります。
所有権界は、記録されていません。
ふつう、境界の問題というと、2人の所有権がそれぞれどこまでか?が一番問題
ですので、②の所有権界の話をテーマにしがちです。
しかし、専門家は、まず、①の筆界を確定 → ②の所有権界を確定
というプロセスをたどります。
したがって、まずは①の筆界が、土地の現場でどこにあるのか?を考えます。
筆界の判定は、歴史的な検証作業です。
つまり、原始筆界であれば、「明治時代に引かれた線はどこだったのか?」
というある意味考古学的な探求を行うわけです。
この探求は、登記図簿(法務局にある資料)の調査がまず第一であり、
次いで、その他の文献、図面、航空写真、そして、現地にある境界標識や
地形地物、古老の証言などが問題となります。
ですので、専門家の思考プロセスと、一般の方が考える思考プロセスが
少し違うのです。
そうして、①の筆界が特定されると、こんどは、②の所有権界がどこにあるか
という議論に入ります。
これは、基本的には筆界のとおりであると考えられるわけですが、
その後の占有事情の変化によっては、所有権界が筆界と異なっている
場合があります。
専門家は、このような用語の問題についても説明させていただきますが、
境界の問題の場合、特に、専門家の思考のプロセスが違っているんだ、
ということに気付いていただけると、理解がしやすいかもしれません。
こうした境界の問題は、ほとんどの場合、土地家屋調査士の専門分野ですが、
紛争性のある場合は、土地家屋調査士の先生とともに事件を担当させて
いただくことになります。
境界の問題は、最初は分かりにくいですが、
その土地の歴史的な変遷推移をすることができたり、
思わぬ発見がある、興味深い分野なのです。
最後まで、お読みいただきありがとうございました。