「弁護士はどうして悪いことをした人の弁護をするのですか」
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弁護士に対する、よくある質問のなかで、最も多いものの一つがこれです。
「弁護士はどうして悪いことをした人の弁護をするのですか」
これは、弁護士になった者から見れば、あまりにも、疑問に思わない、
当然のことのように思えます。
刑事事件で逮捕された人の弁護(刑事弁護)は、弁護士以外、
することができません。
だから、弁護士が当然にすべき「仕事」なのです。
サラリーマンの人に対して、
「サラリーマンは、どうして会社へ出勤して働くのですか。」
タクシー運転手の人に対して
「タクシー運転手は、どうして車を運転するのですか」
というのと、同じようなレベルの質問に思えるのです。
しかし、冒頭の質問で、一番聞きたいことは、
「悪いことをした人の弁護をするなんておかしいのではないか」
「悪いことをした人の弁護をする必要なんてないではないか」
という価値観の問題だと思います。
凶悪な殺人者について、弁護をする必要があるのか、
テロリストについて、弁護をする必要があるのか、
強盗や強姦の犯人について、弁護をする必要があるのか、
という問題だと思います。
この質問に対する、私なりの答えは、次のとおりです。
1 捕まった人=悪いことをした人とは限らない
「凶悪な殺人者」「テロリスト」「強盗や強姦の犯人」と言われた人でも、
本当にその人がしたかどうか、分からないじゃないか、
真実を明らかにするのが弁護士の役割だから、です。
2 もし、捕まった人が、本当に悪いことをしていたとしても、
具体的にどのようなことをしたのか、それぞれの話に食い違いがあったり、
事実が誇張されたり、捻じ曲げられていることはある
間違った事実はただす必要があるから。
結局、真実を明らかにするのが、弁護士の役割だから、です。
3 裁判では、警察側(検察官)が圧倒的な力を持っていて、
裁判官は、悪いことをした人の、悪いことばかり聞かされる。
そうすると、悪いことをした人の言い分をきちんと説明しないといけない。
しかし、悪いことをした人は、たいていの場合、自分でうまく説明することが
できない(コミュニケーションに障害を持っている)。
だから、専門家が、きちんと悪いことをした人の言い分を、裁判官にも
理解できるように伝えないと、公平に判断することができないから。
4 悪いことをした人は、その人自身に問題を抱えていることが多い。
そして、その問題が解消されない限り、再び社会に同じような問題が起きる。
裁判官は、その人の言い分を聞いているようで、聞いてはいない。
裁判所で話すことができる時間は、本当にわずかしかない。
その人自身の話に、最も長い時間耳を傾けることができるのは、
裁判手続の中では、弁護士しかいない。
弁護士が、その人の話に耳を傾けることで、その人自身が問題に気付く
きっかけになることがあり、再犯の抑止につながることがある。
5 悪いことをした人の、謝罪、被害弁償の窓口になる人はほとんどいない。
実際、弁護士自身が、謝罪や被害弁償、被害者・遺族との話し合い、
示談などの役割を担い、被害者や遺族の方の話にも耳を傾けることが多いです。
(もちろん、事件の種類にもよりますが、痛切な被害感情をお持ちの方が
多いことは承知しています。)
悪いことした人が、被害を少しでも償おうと思ったとき、その窓口や代理人
の役目を果たす人が絶対に必要です。
弁護士は、こういった法的知識もあり、被害者や遺族のためにも弁護士の
存在が必要不可欠なのです。
このように、刑事事件における弁護士(弁護人)の役割は、
・真実を明らかにする
・公平な判断を助ける
・その人自身の問題を解消する
・被害弁償等の窓口となる
ということがあるのです。
どちらかといえば、理想論だ・・・と思われるかもしれません。
たしかにそれはそうであり、私が全部できているのか?と尋ねられると
できていないことのほうが多いかもしれませんが、
理想を掲げて職務を行うことに意味があると私は思います。
まだまだこの答に納得できないという方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、現在の制度がすべて完璧であるということもできません。
様々なご意見があれば、お寄せ下さると幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。