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十七条の憲法⑨

◆弁護士コラム◆ 十七条の憲法には何が書かれている⑨?

(まこと)は(こ)れ(ことわり)の(もと)なり。(こと)(ごと)に(まこと)(あ)れ。(そ)れ善悪(よしあし)成敗(なりならず)、(かなら)ず(まこと)に(あ)り。群臣(まちきみたち)(とも)に(まこと)あるときは、何事(なにごと)か(な)らざらん。群臣(まちきみたち)(まこと)なければ、萬事(よろづのこと)(ことごと)に(やぶ)る。

 

第9条のテーマは「まこと」です。

「信」と書いて「まこと」と読みます。信じるの「信」という字が充てられていますが、例によって訓読みをしますので、「まこと」について書かれているのです。

「誠」「真」「真事」「真言」などの字もすべて「まこと」と読みます。まことは、うそいつわりのないこと、ありのままであること、本当のことを言います。

「義」は「ことはり」または「ことわり」と読みます。「ことわり」はそのとおりであるさま、もっともであること、道理にかなっていることを言います。「断り」「理」も「ことわり」と読みます。

「まこと」は、ありのままであることを言い、それが道理にかなっている「ことわり」となります。

わが国の場合、まことであることは非常に重要視されてきたと考えられます。現在も、日本の法令には、「信義誠実の原則」という規定があります。「信義に従い、誠実にこれを行う」(民法1条2項)、「裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。」(民事訴訟法2条)、「裁判所は、家事事件の手続が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に家事事件の手続を追行しなければならない。」(家事事件手続法2条)などと、民事や家事事件の重要な原則とされ、最高裁判所も行政法はじめ様々な事案でも信義誠実の原則、信義則を適用しています。信義誠実の原則は権利の行使や義務の履行のみならず契約解釈の基準にもなるともされています(最判昭和32年7月5日民集11巻7号1193頁)。

法律家としてみても、信義誠実の原則は、裁判において意外とよく使われるものです。法律に書かれてはいないが、非常におかしな行動や、不合理なふるまい、前後矛盾する主張などがなされているときに、信義則に反するような行為は許されないと指摘します。そして裁判所も信義則を比較的良く認める傾向にあります。

その信義誠実の原則に使われる、信(まこと)も義(ことわり)もともに十七条の憲法に書かれていることがたいへん興味深く思います。

つまり、裁判の上で、まことであること、道理にかなっていることを、昔も今も、重視してきたのがこの国の思想と言えるのではないでしょうか。

特に、第一文は、まことであることが、もっともなことであり、それがそのまま道理のもとになる、という意味に解釈されます。

儒教では「仁義礼智信」の順に「五常」としておりますが、聖徳太子は、冠位十二階を定めるにあたって、その順位を入れ替え、「徳・仁・礼・信・義・智」としており、「信」を「義」よりも先においています。これらは冠位の名前ですが、あえて訓読みで読むと、「うつくしび」、「めぐみ」、「うやまひ」、「まこと」、「ことわり」、「さとし」となりますので、日本でどのようなものが重要視されてきたかがうかがえるように思います。

要するに、中国では「義」が先の方に来ていますが、日本では「礼」や「信」が義よりも先にあるのです。第4条には「うやまひ」が説かれ、第9条の「まこと」が「ことわり」の本であるとされているのです。こうした発想も、日本ならではの価値観であると考えられます。

つまり、民をいつくしみ、めぐむのが最重要であり、その次にうやまひがあり、そしてまことであることが重視され、そうしたまことが「ことわり」を生み、「さとし」つまり智慧を生むという発想なのです。

このように、民をいつくしみ、めぐむことを重視することや、相手を上に見ること、ありのままであることを重視するのも、言われてみれば当然のこととして、理解することができるのではないでしょうか。

正直であること、嘘をつかないこと、素直であることが美徳とされるのも、日本人の顕著な特徴のように思います。逆に言えば、外国の発想は必ずしもそうではない、ということです。ですから、

 

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